森のイスキア・佐藤初女

以前、ガイアシンフォニー第5番の上映会を友人と企画した時に佐藤初女(さとうはつめ)さんの講演を監督と一緒にお願いすることにした。ところが講演の直前に初女さんがころんで肋骨にひびが入って行けなくなってしまったことがある。講演のキャンセルを気にされていた事もあって、年明けにガイアシンフォニー第二番上映を企画して佐藤初女さんの講演は無事実現した。

2000年に青森県の岩木山麓にある佐藤初女さんの「森のイスキア」を訪問した。発酵道の寺田本家さん、気功の中健次郎夫妻、サウンドセラピストの Aikaさんもご一緒だった。

森のイスキアは「大自然の中に、心病める人の憩いの場をつくりたい」との願いから1992年に土地も建物も家具、備品まで全国のみなさんから提供していただいて出来たそうである。

あたりは世界遺産に指定された白神山地があり、近くの森の中を歩いて15分ほどのところには龍神を祀った神社があって散歩をしてもとても気持ちがよい場所にある。

「森のイスキア」のお風呂は近くの湯段温泉から引いた温泉である。一泊6千円で泊めていただいた。

泊まる人数が多いときは近くの旅館に素泊まりして、食事は「森のイスキア」でとるそうである。その日は22人もの宿泊だったので群馬からこられたご夫婦は近くの旅館に宿泊した。

そのご夫婦のお話を伺うと医者に見放された病気が甲田先生のお陰で良くなったという。命の恩人だと大変感激していた。私の回りにはよく甲田先生のことをご存知の方が多い。

参考までに日本のゲルソン療法と言われる甲田先生の食事法の一つを紹介する。

朝:人参ジュース 1杯   青汁1杯
昼: 青汁1杯、生玄米粉120gぐらい
ときにお豆腐半丁(塩、根昆布粉末)たまに豆乳
以上で一日の食事終わり。

火を使わないので地球温暖化防止に貢献できそう。 病気によってやり方が違うので、 病気の人はそのまま実行しないでもらいたい。
これは一つの例なので、 甲田先生が体質に合わせて処方箋を書いてくれる。 (甲田先生は2008年8月12日に他界された。享年84歳)

このほかに般若心経読経、金魚運動などを併用。お風呂は水風呂と風呂を交互に入る。
根性が曲がっていないかぎり甲田先生の方法で病気は良くなる気がする。肌がつるつるしてくるので女性は喜ぶ。

「森のイスキア」にお伺いした時に初女さんが「最近、頭頂が盛り上がって来たんです。」そう話なされた事がある。気功の先生が「それは智恵の座といって中国の老師を始め覚者はそうなってくるんですよ。」と伝えたところ、初女さんはなにかこぶが出てきたと思っていたようである。初女さんの見かけは普通のおばあさんだが実は覚者なのである。

この日はちょっと足がむくんでおられたので手当をさせていただいた。いつまでもお元気でいただきたい。

全国から森のイスキアに心病める人が相談にやってくるが、「訪ねて来る人にどの様に対応されるのですか?」と聞くと、初女さんは自分からせんさくして相手にこうしなさいとアドヴァイスをしないという。

『何もしないんです。その方のお話を伺うだけなんです。ただ一つ言えることは一緒に食べることね。おいしいと言って食べた時に心の扉が開いてどんどん中から出てくるから、空っぽになった時に新しいものが入ってくるんですよ』

『聞くということが大事なの、ただ聞くのではなく、共感しながらね。本当にその人の心に置き換えて聞かないと、話す人も話せませんからね。受け入れられるということはどんなに大きい事かわからないですよ。そういう中で、話して話して話してその人が自分で道を見つけるんですね』

初女さんは相手に自分で道を見つける能力があることを信頼している。答えを教えることは逆に自分で解決する機会を奪ってしまうかもしれないのである。

『聞き手が問題を引き受けてしまうと、話相手の問題解決能力を奪ってしまう。 そのためには不安、コンプレックス、焦り、怒り、困惑、などの自分の感情を認識して判断も評価もせずに聞きつづけていく。自分の感情に気づき、それにとらわれず、相手に集中して聞くことの二つ事を同時にしなくてはいけない。』

鈴木秀子「愛と癒しのコミニュオン」

アドラー心理学の協力という言葉は
『原則としては、頼まれないかぎり、相手の人生に口や手を出さない。頼まれればできるだけ援助する』よく陥りやすいのが保護、干渉 『頼まれているかどうかにはかかわりなく、自分の判断で、相手の人生に手や口をだす』

ミヒャエル・エンデ「モモ」岩波書店

『モモに話を聞いてもらっていると、ばかな人にもきゅうにまともな考えがうかんできます。モモがそういう考えを引き出すようなことを言ったり質問した、というわけではないのです。彼女はただじっと座って、注意ぶかく聞いているだけです。その大きな黒い目は、あいてをじっと見つめています。するとあいてには、自分のどこにそんなものがひそんでいたかとお驚くような考えがすうっとうかびあがってくるのです』

ピアカウンセリングには8つの誓約というものがある。

  1. 批判的にならない、決めつけない。
  2. 共感を示す。コンクリートの壁にならない。
  3. 個人的なアドヴァイスを与えない。
  4. 詰問調にならない。なぜで始まる質問には気をつける。
  5. クライアントの抱える問題の責任は取らない。
  6. 解釈をしない。
  7. 現状と現時点に視点を据える。
  8. まず感情と向き合い、感情について話し合う。

『子どもが「算数の勉強なんかしたくない」と言った時に「そんな事言わずにやりなさい」といっても「やらなくてもいいよ」といっても、問題の主体は聞き手のほうへ来てしまう。したいかしたくないかは本人の問題で本人がきめる事。とすれば唯一可能な答えは「そうか、君はは算数の勉強がしたくないんだね。」とその気持ちを持っていることを認める事、それは確かにうけとったと伝えることである』

トマス・ゴードン

『相手が話しだした時、私たちは相手の感情や問題を吸い込む。話し手は少なからず恐れや不安、混乱などを感じているが、聞き手もそうしたネガティブな感情に振り回されてしまうのである。そしてこの無意識の操作が聞き手を非受容の状態におとしいれてしまうのだ。つまり、人を受け入れられるか否かの能力の大部分は、私たちの心の状態にかかっているのだ』

トマス・ゴードン「非受容の姿勢」

シュタイナーによると
『だれかが意見を言う。ほかの人がそれを聞く時、ふつうは聞く人の心のなかに賛成、反対のどちらかの反応がうごめくものである。また多くの人たちは、ただちにその賛成や、とくに反対の意見を外に表したい気持ちにかられてしまうものである。しかしこの道の修行を志す人はこうした反対や賛成の気分をすべて沈黙させなければならない』

「人間は自分をまったく無にして他者の言葉を聞ける様になる。自分のこと、自分の意見や感じ方を完全に排除して、自分と正反対の意見がだされるとき、いやおよそひどいことがまかり通る時ですら、没批判的に聞き入る練習をしていくとしだいにその人は他者の本質と完全に融け合い、すっかりこれと合体する。相手のの言葉を聞く事によって、相手の魂の中に入るこむ』

シュタイナー「いかに超感覚的世界の認識を獲得するか」

ながながと引用したが、私はなかなか黙って話を聞ける性分ではない。すぐに解釈、判断、分析の世界に入ってしまい。興味がなければ、話の腰を折ったりと非受容の会話ばかりしている。

初女さんの言葉はカウンセリングの勉強やトレーニングを受けた訳ではなく、悩みや苦しみを抱えて いる人達の話を受け入れて聞き、心をこめた食事を一緒に食べる、こんな日常生活のなかから自然ににじみ出てきたものだ。カウンセリングのテクニックだけを学んでも相手の心は開かない。

ある時ある方による遅くまで相談され、翌日、疲れた身体で汽車に乗り込んだ時に窓からヨハネ15章13節の「友のために自分の命を捨てる。これ以上大きな愛はない」という文字が流れて突然目にはいったんだそうである。すぐに消えたが当たりを見回しても何処にもそんな文字はなかったいう。あまりふしぎなので神さまが見せてくださったのではないかと思ったそうである。
もし、辛いからと言って相談された方を断ったなら、そんな不思議な体験をしなかっただろうと初女さんは思ったそうである。

『一人一人の中に神は宿っている。だからその人の中にいる神との出会いを強く感じています。』

『“面倒くさい”というのが嫌いなんです。面倒くさいと言う気持ちの人が全てを壊していくなぁと見て感じてそう思ったんです。』

佐藤初女さんがお米の水加減をみる時は手にとって、じっとみる。お米と話をしているかのようである。それから、少し水を足されて炊き上げたお米は見事にふっくらと炊きあがる。

ごはんをもる時も お米が一粒一粒つぶれないようにふんわりと 何回も丁寧にしゃもじをお茶碗にはこんでいた。

『私は食材を見て献立を考えるの、食材を命と考えたとき、活かすためにはどうすればいいのか、心をこめて慈しむように調理すればぜったい美味しくなるんですよ。おいしいと感じて食べたときそれが自分の命となるんですね。』

『「祈りうちに今を生きる」というのが今の私の心境なんですよ。今というのが一番大事で、5年後10年後の計画の為に進むのではなくて、今を生きる事によって先の道が示されてくるし、自分の目的に向かっているわけです。

目的に重点を置いてやると足元が不安定になりますね。手を合わせての祈りも大切だけど、行動、生活そのものが祈り。こうしている間も私にすれば祈りですよ。具体的には出会う一人ひとりを大事にして小さいと思われる事も大切にしていくという事です。』

『苦しむときはとことん苦しみの。もうね苦しみきれなくて疲れるくらい。それくらい苦しんでそこから這い出すんですけど、這い出す時は自分の好きなものをやりはじめるの。そうするとそれに集中するでしょう。そうしている内に苦しむ事出来なくなっているから、順々に軽くなってくるの。

そうするとまた次の苦しみが出てくるんだけど、それを繰り返しているわけですよ。それでも苦しみが苦しみで終わらないんです。苦しみが必ず喜びに変わっていく、喜びに向かうその途中であると感じています。だから逃げたりはしないんです。そう繰り返しているうちに段々強くなって来るの』

 天河神社の帰りのバス停で初女さんと偶然お会いしたことがある。1921年10月3日生まれで80歳のご高齢にもかかわらずお一人だった。いまでも全国各地を講演して歩かれている。これからもお元気で活躍していただきたい。

佐藤初女さんの講演 約30分

参考文献

「いかに超感覚的世界の認識を獲得するか」 シュタイナー 筑摩書房
「親業 」 トマス・ゴードン 大和書房
「自立心を育てるしつけ-親業・ゴードン博士」 小学館
「ゴードン博士の人間関係をよくする本」 大和書房
『仲間どうしで「聞く・話す」ピア・カウンセリング入門』 オーエス出版
「ピアヘルパーハンドブック」 日本教育カウンセラー協会図書文化社
「アドラー心理学の基礎」 ドライカース 一光社
「続アドラー心理学 トーキングセミナー」 野田俊作 アニマ2001
「愛と癒しのコミュニオン」 鈴木秀子 文藝春秋
「モモ」 ミヒャエル・エンデ 岩波書店
「甲田式健康道 決定版」 甲田 光雄 マキノ出版
『マンガでわかる「西式甲田療法」』 甲田 光雄 マキノ出版
「背骨のゆがみは万病のもと」 甲田 光雄 創元社
『地球交響曲第二番 [DVD]』 Jin Tatsumura Office

佐藤初女さんの著書

『おむすびの祈り「森のイスキア」』 集英社文庫
「いのちの森の台所」 集英社
「初女さんのお料理 」 主婦の友社
「初女さんからお母さんへ 生命(いのち)のメッセージ」 主婦の友社
「初女(はつめ)お母さんの愛の贈りもの」 海竜社
『いまを生きることば「森のイスキア」より』 講談社
「こころ咲かせて」 サンマーク出版
「朝一番のおいしいにおい」 女子パウロ会
「母のこころを すべてに」 アノニマスタジオ
「あなたに喜んでもらえるように-いつも感謝の心で」 海竜社
「森のイスキアで話したこと」 佐藤初女・宮迫千鶴対談 創元社